有機今年3月にドイツで開催されたIT見本市「CeBIT」に、新時代のコミュニケーションツール「言花(KOTOHANA)」がコンセプトモデルとして出展された。心の動きに合わせて優しく光を放ち、人と人との気持ちを結ぶ、小さな花の誕生秘話に迫る。物である植物を、デジタル・デバイスの一部として活用しよう。
そんな取り組みが、慶應義塾大学の田中浩也研究室で行われている。人間と植物の新しい関係を生み出そうとする「植物インターフェイス」とは、一体どんなテクノロジーなのだろうかーーー。
「心」を代弁する3本の花

手紙、電話、Eメールと、時代とともに多様化と進歩を続けてきたコミュニケーションツール。さまざまな情報があふれ、デジタル化された現代社会において、「人の気持ち」という微妙で形のないものを正確に伝え合うことはますます困難になる一方である。
そうした中、日本電気株式会社、株式会社NECデザイン、日本SGI株式会社の3社は、人と人との気持ちを光で伝え合うフィーリング・コミュニケーター「言花(KOTOHANA)」を共同開発した。これは、LEDを組み込んだ花型の端末が、話し手の感情を光の色で表現する次世代コミュニケーションツールだ。
例えば、その周囲で話している人が「楽しさ」を感じていたら「黄色」、「興奮」を感じていたら「赤色」というように、話者の感情に応じてさまざまな色で反応し、人と人の対話をより楽しく演出する。それぞれの端末同士は、無線LAN等により接続されることを想定しており、離れたところでも話者の気持ちを知ることもできる。さらに携帯端末などにこの機能を組み込むことにより、相手の感情やフィーリングをさりげなく知るという、新しいコミュニケーションを生み出す可能性も持っている。
コンセプトは「贈り物」
レゾナント・ウェア。"共鳴する機器"を意味する、NECデザインが提唱しているコンセプトである。人の気持ちにフィットするデバイスや、従来のテクノロジーでは扱うことの難しかった微妙な情報を自由自在に操るインターフェースを提案するという理念から、「言花(KOTOHANA)」のアイディアは生まれた。
「オンライン上での人と人のゆるやかなつながり。このコンセプトを活かせるアイテムをつくりたいということで、感情認識エンジンを用いた新しいコミュニケーションツールの構想が持ち上がりました」。とNECデザインのソリューションデザイングループで開発を担当した坂井晃氏は語る。
あわただしい生活の中のちょっとした心の揺らぎ。そんな感情の機微を離れた場所にいる大切な人とさりげなく分かち合うことができたら……。人間関係が希薄化する現代社会において、「感情の共有」はひとつのキーワードになる。プロジェクトはそこから始動している。
「元々はペアの端末を気軽に相手にプレゼントできるようなもの、というところからスタートしました。人に贈るものという点で、花の形状をしたものはどうかというアイディアが生まれたのです。」
自分でも気づかないような細やかな感情を伝えてくれる「言花(KOTOHANA)」に、「自分よりも自分の心を知っているようで、ハッとさせられます」と坂井氏はその可能性を評価する。
声から喜怒哀楽を読み取る

この「言花(KOTOHANA)」の心臓部分が、日本SGIが株式会社エイ・ジー・アイと共同開発した感性制御技術ST(Sensibility Technology)である。STは人間の発話音声中に含まれるくせや特徴を、音声のリズムとして分析することで喜怒哀楽等の感情を検出するソフトウェアエンジン。
人間の感情という新たなフィールドの開拓の最中、NECデザインとの提携から「言花(KOTOHANA)」開発のプロジェクトが持ち上がった。
日本SGI ユーザーインターフェース事業推進の担当者は、「人と機械をつなげるという我が社の理念に、言花のコンセプトは非常にしっくりきました。人と人の気持ちをつなぐあたたかなコミュニケーションのきっかけになれれば、と考えました」と語る。
「感情の声への表出は人によって千差万別です。STはいわば最大瞬間風速計測器で、その瞬間の気持ちだけを読み取るもの。だからこそ感情認識の正確さの精度を上げることは大きな課題でした」。不安定で曖昧な人の気持ちをいかに正しく認識させるか。試行錯誤の日々が続いた。
その成果か、STの新たな可能性も見えてきた。例えば医療への応用。日々の会話の中からユーザーの精神状態を分析し、心理カウンセリングを行うシステムも実現化への道が開けてきた。そのほかにも、コールセンターや介護支援、さらにはロボットへの応用と、可能性は広がる一方だ。「人の気持ちと機械の間にあうんの呼吸をつくりたい。そうすれば人は瑣末なことにとらわれることなく、もっと本質的なことにとりくめるのではないかと思います」
プロジェクトの発足から約4ヶ月を経て、「言花(KOTOHANA)」は今年3月にドイツ・ハノーバー市で開催された世界最大のIT見本市「CeBIT」(国際情報通信技術見本市)に出展された。そしてその後もCEATECなど、国内外のさまざまな展示会に出展されている。
「言花(KOTOHANA)」自体はあくまでもコンセプトモデルであり、一般発売の予定はないとのことだが、人と機械をつなぐインターフェースを具体化したことのもつ意味は大きい。心を伝える3本の花は、人と人とのコミュニケーションに介在して、情緒やぬくもりの伝達のサポートをするという限りない可能性を秘めている。
| プロフィール |
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株式会社NECデザイン
ソリューションデザイングループ クリエイティブディレクター
坂井 晃氏 |