食卓の上に、スクランブルエッグにベーコン、オレンジジュース、そしてオーブンでこんがりとトーストされたパンが並ぶ。よくある朝食の風景だ。しかし、パンにジャムを塗ろうとしたとき、ふと違和感を覚える。むしろこの香りには、納豆やお漬物を用意したくなる――。
米だけを原材料として作られたパン、それが株式会社パウダーコーポレーションの販売する「ラブライス(Love Rice)」である。一人暮らしの増加、洋食化などによって米離れが進む現代の日本人にとって、第三の主食となることが期待されているパンだ。もともとは農家のグループが、山形県産のブランド米「はえぬき」の消費拡大を図り、米を使った新しい食品を作りたいと考えたことがきっかけ。現在、米の消費は減る一方で、良い米を作っても食べてくれる人がいない。米農家の支えになるような、新しい商品が作れないものか……。そこで目を付けたのが米を粉として利用するパンの開発だったのだ。
しかしそこには大きな問題があった。気泡を閉じ込めてパンをふっくらとさせるにはグルテンが必要だが、米にはそれが含まれておらず、従来の常識では、米でパンを作ることはできないとされていたのだ。これまでにも、米を用いたパンは製品化されていたが、それには小麦のグルテンが加えられていた。他商品との差別化を図り、また小麦粉アレルギーなどでパンが食べられない人たちにも受け入れてもらうため、米粉だけでパンを作りたい。しかし、何度試しても、潰れた形のパンしか焼きあがらない状況に、開発グループは、山形大学に相談を持ちかけた。その相談が巡り巡って、プラスチック加工技術を専門とする、工学部の小山教授のところに届いたのは、2001年1月のことだ。
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では、なぜ一見無関係な「プラスチック加工技術」と「パン作り」が結びついたのだろうか。
プラスチックは、数種類の異なる性質の原材料を混ぜ合わせると、一種類の原材料では得られない特性が現れるという。「食器を洗う家庭用のスポンジを思い出して下さい。あのスポンジは、実はプラスチックの発泡形成技術によって膨らんでいます。均一に膨らんだスポンジができあがるのは、分子構造の違うプラスチック原料による、長短分子の組み合わせのおかげなのです」。パウダーテクノコーポレーション代表の東野真由美さんはそう語る。もともと、小山教授の秘書だった東野さんは、教授に勧められて研究員となり、このスポンジの概念を米粉にも応用を試みた。グルテンを含まないお米だけでパンが作れるわけがない、そう決め付けず、新しい視点から開発を行なったのが幸いしたという。
「米を粉へと粉砕する時に加える力を変えると、タンパク質の構造が変わることがわかりました。それを何種類かブレンドすることで、米粉だけで作ったパンが膨らんだのです」。
研究員の毎日の努力の結果、ついにお米だけでてきたパン「ラブライス」は誕生した。特許出願後、満を持して行ったテスト販売では、九十分間で1千食を売り上げるという、予想以上の大成功を遂げた。
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東野さんは、この成功をきっかけに大学関係者を中心に資本金を集め、山形大学大学院ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(*)初のベンチャー企業として同社を立ち上げた。現在は「ラブライス」の販売を中心に、新商品の開発も行なっている。「すべての作物は粉として新たな加工が可能です。現在ほとんどの穀物を、国外からの輸入に頼っているという状況ですが、このような状況を打破し、日本の農業の重要性を見直してもらうことも私たちの目標です」。
海外でもその技術は認知されており、ロイヤリティを広げつつある。お米でできたパン「ラブライス」が、日本はもちろん、さまざまな国の食卓に並ぶ日も近いかも知れない。
*ベンチャー精神に富んだ創造的人材の発掘・育成そして企業などを多方面から支援することを目的に、平成10年度に設立された山形大学内のベンチャー支援組織