「機械工学の面白さと夢を多くの人に伝えたい」
多くの生物の細胞内に存在する細胞小器官、ミトコンドリア。このミトコンドリアは、その生物のDNAとは別に、ミトコンドリアDNAと呼ばれる独自のDNAを持っている。このミトコンドリアが怪物のように暴れだしたら……。「ミトコンドリアの反乱」というアイデアを元にしたホラー小説『パラサイト・イヴ』を1995年に発表し、同年第2回日本ホラー大賞(同賞初の大賞)を受賞した瀬名秀明氏。当時東北大学大学院薬学部研究科博士課程に在籍する研究者であったことでも話題になった瀬名氏は、その後も『BRAIN VALLEY』(第19回日本SF大賞受賞)などの小説を刊行し、科学や人間に関するコラムや対談も数多くこなしている。その瀬名氏が今年、母校である東北大学工学部機械系の特任教授に就任した。理系のバックボーンを持ちながら小説家として活躍し、また再び理系に深くかかわっている氏に、自身のキャリアについてお話をうかがった。
文系一族の理系一家
「もともと私の父は薬学の研究者で、ガン細胞やインフルエンザウイルスの研究などを行っていました。子供のころから父の研究室によく遊びに行って、そのころからサイエンスに対して興味は高かったですね。もちろん、昆虫採集だとか工作とか、星を見るだとか、男の子の好きな理系的なものは一通り好きでした」
母親も薬学の出身で、理系一家だったとう瀬名家。しかし、母方の祖父が国語教師だったり、父親も論文の文章が結構文学的だったりと、文系一族の中の理系一家という状態だったそうだ。そういう環境だったせいか、子供のころから科学小説や藤子不二雄のSFマンガなどに親しんでいたという。
理系に進もうと思い始めたのは中学生の時。世は遺伝子工学ブームで、新聞などでも盛んに遺伝子工学の記事が掲載されていたころだ。こういう研究をしたい、と考えるようになったのが理系への第一歩だという。
「当時から理系に進みたいとは決めていました。ただ、遺伝子工学は研究したいが、農学部というのもあまりピンとこなくて、具体的な進路には悩んでいました。一時期は、みんなと違うことがやりたくて、原子力工学に進もうとか……(笑)」。
父と同じ薬学部に進学することへの抵抗もあったが、細胞生物学や遺伝子工学などを幅広く扱える分野として、薬学部へ進学。しかし入学後、薬学部は人間を直接扱えないことに気付く。「患者を診られないのはもちろん、細胞の組織標本などを得ることも医学部経由でないとできませんでした。遺伝子の研究ではやはり最終的には人間の遺伝子を扱い、人間に対しての結果を出したいのですが、間接的にしかアプローチできないもどかしさがあるわけです」。しかし、薬学部では物理も化学も生物学も、と幅広く学べるという利点もあった。興味範囲の広い氏にとっては、結果としていい選択だったというわけだ。そしてこの幅広さが後々の活動にも大きく関わってくることになる。