
「自分の進路を考えるとき、何をやりたいか、という点はもちろん重要ですが、それと同じぐらい自分がその場の雰囲気になじみやすい環境かどうか、といった考え方も重要だと思います」。高校から大学に行くときは、「何がしたいか」というモチベーションが大事になるが、大学から院への進学や、就職を考える時などは、その環境が自分に合っているか、その会社や研究者の下で働きたいと思えるか、という環境の要因が大きいという。
この考えかたは、前述した分野間のボーダーレスな交わりの考え方につながっている。さまざまな研究テーマがある中で、何か別のテーマを選んだとしても、やりたいことがぶれずに、適切な環境を選んでいれば、最終的に自分の仕事とやりたいことを近づけられるということなのだ。人生の選択というのは、この道に進んでしまったらそれしかない、というものではない。人の興味というのは年齢と共に変化していくものであり、その興味を持った範囲に仕事を広げてしまえばいいということなのだ。そして、それが可能な環境を選ぶことの方を重視したほうがいい、というわけだ。
最後に今後の展望についてうかがうと、自分のやっている仕事がそういう感覚だから、と前置きした上で語ってくれた。「今から20~30年もしたら、小説家とエンジニア、ライフサイエンティストのそれぞれが同じ役割を指すようになって欲しいと思っています。ライフサイエンティストはストーリーを作る者と同じであり、それはエンジニアと同じことだと、そういう風になるのではないかと思うわけです。私の後の世代のみなさんは、分野を広げたりリンクさせたりといったことが、今よりもっと自由に出来ると思います。そうなれば文系や理系の枠もさほど関係がなくなる。ただ、そうなっても属するコミュニティや、自分のコアになる部分は必要です。そういうときのために、子供のころ楽しい、面白いと思ったものは、自分の中で取っておいた方がいいでしょうね。それを仕事や研究で掘り下げていくことでどこかでその分野を広げるきっかけになる。将来にもきっと役立つと思いますよ」。