東京大学発の研究成果や人材によるベンチャー企業に支援・出資を行うベンチャーキャピタルである東京大学エッジキャピタル。その最初期からの投資先である株式会社モルフォは、同大学出身の映像関連研究者が集まって立ち上げた企業だ。同社が開発した組み込みソフトウェアによる手ブレ補正技術PhotoSolid

は、特に小型カメラの分野で非常に熱い注目を集めている。
手持ちカメラの天敵である「手ブレ」

小型のデジタルカメラやカメラ機能付き携帯電話が普及した昨今、写真を撮るという行為は非常に身近になっている。その撮影時、カメラが動いてしまう、いわゆる「手ブレ」によって上手く撮影できない経験をした人は多いのではないだろうか。
この手ブレを撮影時に修正するのが「手ブレ補正機能」である。従来、手ブレ補正といえば、ジャイロセンサー式の機械的なものが中心だった。しかし機械式の手ブレ補正機能は、搭載されるのも高性能なカメラや、レンズの中に組み込まれているものが中心だ。コストがかかる上、ユニットを搭載するためにどうしてもカメラやレンズが大きくなってしまうのが欠点だった。今回株式会社モルフォが開発した手ブレ補正機能「PhotoSolid」は、カメラに組み込んだソフトウェアの映像処理によって手ブレを解消する、という技術である。ソフトウェア補正ということで低コストを実現しつつも、従来の技術に比べても高精度な補正が可能だという。
従来とは異なる手法の手ブレ補正
そもそも手ブレとは、シャッターが開いている間にカメラが動くことで発生するものである。従来のジャイロセンサーを用いた手ブレ補正は、レンズを動かすという、ハードウェアによる光学的な技術である。しかしソフトウェアで手ブレの補正を行う場合、その手法を使うわけにはいかない。
そこで、モルフォの取ったアプローチは、シャッタースピードを速くすれば手ブレが発生しにくい、というカメラにとっての大前提を利用するものだった。とはいえ、単純にシャッタースピードを短くしただけでは、今度は画面が暗くなってしまう。この葛藤を解決するため、モルフォでは短いシャッタースピードで一度に複数枚の写真を撮影し、足し込むことで明るさを補う、という処理を行っている。カメラ本体やカメラモジュールにも調整が必要になるものの、これによって高性能なソフトウェア手ブレ補正を実現したわけだ。
処理速度との戦い
だが、実用化に2年を要したというだけに、開発の道のりは単純ではなかったようだ。「一番の問題は処理速度でした。開発当初は1メガピクセル程度の処理がPC上で数秒の時間がかかってしまったんです」。組み込みソフトウェアの開発は通常、まずPC上で行われる。PCに比べると、組み込み用基盤の処理能力は10分の1以下になる。単純に考えて、PCで数秒かかる処理は、組み込みでは数十秒かかる計算だ。これではとても実用はできない。
それから後は、いかに不要な処理を削ぎ落としていくかの戦いだったという。少しずつパラメータを変えて実行することで、あってもなくても結果に大きな影響の出ないものを省いていく。そんな地道な改良によって徐々に処理速度は早くなっていった。
「そういう作業をしているうち、アルゴリズム的にも考え方が明確、かつシンプルになっていきました。それは処理速度だけでなく、画像の処理精度も向上させる結果となったのです」。現在では初期のものから100倍近いスピードアップを実現しており、PC上なら数十分の一秒、組み込み基盤上でも1~2秒で処理可能という。
カメラ付き携帯電話に最適の機能
もうひとつ見逃せない、大きな利点がソフトウェアにはある。それは耐久性の問題だ。ジャイロセンサーは衝撃などで壊れる恐れがあるが、ソフトウェア式の場合は、カメラ本体が壊れない限り機能に問題はない。そのため、今回のモルフォの技術も、デジカメメーカーよりも、携帯電話の開発現場からの注目が特に高かったという。
そういったいきさつもあってか、モルフォの手ブレ補正機能は、この夏発売の携帯電話に搭載され、市場に登場することとなった。その製品が大きく宣伝している6自由度補正というのも、PhotoSolidの大きな特徴のひとつだ。
これまでの手ブレ補正機能は、ジャイロスコープ式でも、ソフトウェア補正でも、基本的にはカメラを構えた場合のタテ回転(ピッチ)とヨコ回転(ヨ-)だけを補正する2方向(2自由度)の補正をするものが支配的だった。だがモルフォではレンズを中心とした回転運動(ロール)に加え、前後と上下左右3方向への平行移動も加えた、6方向(6自由度)のブレを補正できる技術を実現している。
「ソフトウェアならではの特徴を出したかった。確かに2自由度の補正なら、アルゴリズム的に楽なのですが、コストを低く抑えられるソフトウェアだからこそ、安かろう悪かろうではない、高機能なものを目指しました」。市場の求めるものを的確に、かつ高性能に実現化するモルフォのテクノロジーは、今後も我々の目にインパクトを与えてくれるだろう。
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| 右の2自由度補正では、レンズの中心を軸とした回転運動によるブレが補正できず、画像の周辺部分がブレている |
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被写体が接近したマクロ撮影では、前後方向のブレによる影響が大きくなるが、これも補正される。 |
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低照明下ではシャッタースピードが遅くなるため手ブレを起こしやすいが、文字もクリアに写っている |