だが、どんなに優れた車を開発したところで、実際にそれが世界中に普及しなければ、地球環境のためには何の貢献もしていないに等しい。そしてFCXの普及のためには、少なくとも二つの越えるべき大きなハードルが存在している。
第一に、コスト面での問題。燃料電池のセルには非常に高価な金属が使われているため、どうしても燃料電池自動車のコストも高くならざるをえない。現段階では軽く1億円を越え、一般の人々の手が気軽に届くレベルだとは言いがたい。
第二に挙げられるのは、インフラ面での問題である。燃料電池自動車が水素を充填するための水素ステーションは、現在関東に10基、全国あわせても13基しか存在していない。これではいくら自動車自体の燃費が優れていたとしても、燃料電池車が日本全国を自由に走り回ることは難しいだろう。
だが、「状況はそれほど悲観的ではない」と奥野氏は言う。

「ガソリン自動車の歴史を振り返ってみると、130年前の発明期にはガソリンスタンドなんて一つもありませんでしたよね。自動車が増えるに連れて、ガソリンを売ることが商売として成り立つようになって、ガソリンスタンドも増えていった。水素だって同じはずです。燃料電池自動車が増えれば、おのずと街中に水素ステーションも増えていくでしょう。では、どうやって燃料電池自動車を普及させるか。これについては、材料革命を起こして一台当たりの価格を下げることが出来さえすれば、比較的早く道は開けると思います。現在燃料電池の製造に使われているのは白金などの非常に高価な金属ですが、それに変わる安価な材料を見つけること。Hondaの目下の目標はそれに尽きます」
実際、燃料電池の研究・開発チームが今最も力を注いでいるのは材料の研究だという。普及には10~20年以上はかかると言われている燃料電池自動車だが、もし材料面でのブレークスルーが早期に実現されれば、街を走る姿を目にする日もそれほど遠い未来ではないのかもしれない。
「Hondaという会社が持っている基本思想は、科学技術によって社会に貢献すること。ですからモビリティの楽しさを追求しながらも、青く澄んだきれいな大気環境を次世代に残すために、CO2低減という現代社会が直面する課題の解決にも全力を注いでいます。そして、Hondaが地球環境に貢献できる方法は色々ありますが、その切り札になると考えられているのが、この燃料電池自動車FCXなんです」