――クオンツとはどのようなお仕事でしょうか?

 「クオンツ」の意味は広いです。基本的には数学的手法や数理モデルを使って、マーケットを分析したうえで、投資戦略やアノマリーの研究、銘柄選定などを行い、トレードスキームを開発して利益を上げるのが使命です。例えば私の担当である裁定取引(金利差や価格差を利用して売買し利鞘を稼ぐ取引のこと)もクオンツです。株価の値動きを表すチャートを人間が見ると、上にも下にも行くように見えるものですが、主観を排除して統計的な手法のみで取引の判断をするのがクオンツの特徴と言えますね。
  私は株式と指数先物の裁定取引を軸としたトレーディングをやっていますが、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった財務情報に基づく取引も統計的な手法を用いていればクオンツの領域に含まれますね。ちなみに、最近は普通の裁定取引では利益が出しにくくなってきましたので、リスクをとった派生スキームを研究してみたり、多少リスクの大きいポートフォリオを組んで運用してみたりしています。
  運用部門は会社の資本を預かって運用するセクションです。したがって責任も重く、この仕事を任せてもらえているのは、ものすごく光栄でラッキーなことだと思いますね。自分でマーケット展開のストーリーを考えて、ポートフォリオを組んで収益が上がったときは、本当にディーラー冥利に尽きます。

――クオンツは非常に高度な数式を駆使しているイメージがありますが。

 確かにここ近年の金融工学の進歩はすさまじく、かなり高度な理論が存在するのも事実です、でも私はそんなに難しい数式は使っていないですね。高校生の数学の知識があればできてしまうくらいです。私が未熟なせいもあるかもしれませんが、高度な数式を駆使して最適化・効率化を進めようとしても、最適化の罠にはまっていって逆に利益が出なくなりがちです。シンプルなものの方が結果的に儲かるものだと思っています。マーケットに参加している人は、ほとんど儲けたいと思っているわけですから。恐らくものすごく単純な力学で動いているはずなんですよ。
  もちろん、高度な数学的手法や数理モデルを使っている人も居ます。実際隣のチームがどんな理論に基づいて運用しているかなんて分かりません。逆に言うと、シンプルに見える私たちのチームの運用方法も、数式は簡単かもしれないけれども隣のチームから見れば非常に高度なものに映るかもしれないですね。それぞれのチームが、時間をかけて開発してきたものですから。

――クオンツにはどんな人が向いていますか?

 とにかく自分で考えて、しっかりした考えを持つことが重要です。さらに市場の状況は刻一刻と変わりますから、状況が想定していない方向に変わったら、スッパリと自分の考えを捨てられることも大事です。トレーディングの世界では、損失をいかに小さくするかが問われます。市場の動きに対しては、謙虚じゃなくてはいけません。仮に自分の考えが正しかったとしても、市場の動きは多数派の意見で決まっていくものですから。  
  学生時代は物理学を専攻していました。しかし大学時代の研究は、直接には役立っていません。ただ、統計的な感覚は役に立っています。研究室では実験データを見て、自分の仮説が正しいかどうかの当たりを付けていました。クオンツの仕事でも、シミュレーション結果を見て自分の理論がどの程度信頼できるか、何となくイメージしています。そのイメージができるかどうかが差を生むので、大学時代の経験はそんなところで役に立っていると思います。
  クオンツという仕事は、成果が出ないときのプレッシャーはありますが、成果が数値ではっきりと分かる面白くやりがいの感じられる仕事です。

 

1日のスケジュール
07:00 出社
海外市場の状況確認、ニュースやレポートのチェック
09:00~15:00 トレーディング
基本的にプログラムに従ってコンピュータが自動的に取引を行う
15:10~19:00 明日の準備
本日のトレード内容を振り返り、設定の変更、プログラムの修正を行う
開発中のトレードスキームの検証やシミュレーションを行う