人々を笑わせると同時に、考えさせもする――。そんなユニークな研究や業績に対して与えられる、イグノーベル賞。そして、写真の女性が、昨年「牛の糞からバニラの香りと味のする物質を抽出する」というインパクトのある研究で、イグノーベル化学賞を受賞した山本麻由さんだ。一体どのような経緯で、彼女はこうした研究に至ったのだろう?今回のインタビューでは、その道筋についてお話を伺いながら、研究職という仕事のおもしろさに迫ってみたい。
――まずはイグノーベル賞を受賞した研究についてお伺いしたいのですが、「牛の糞からバニラの香料を抽出する」という研究に至った経緯はどのようなものだったのでしょうか。
宮崎大学の農学部時代、農家や牧場経営者の方々が、家畜の出す排泄物の廃棄に困っているのをいつも身近で見ていたんです。そのままにしておくと水質汚濁や悪臭で近隣住民に迷惑をかけてしまうし、かといって大量の糞尿をきちんと安全に処理しようとすると莫大なコストがかかってしまう。『何か簡単な処理の仕方はないのかな』という問題意識が、その頃から常に頭の片隅にありました。
なので、大学卒業後に就職した国立国際医療センターの研究所では、与えられた仕事のほかに、排泄物処理に関する研究もやらせてくださいと頼んだんです。環境問題への関心も高まっている頃でしたので、ただ簡易的に処理する方法を研究するだけでなく、糞というマイナスのものから何かプラスのものを生み出せないか、というところも同時に考え始めました。
――そうして生まれたのが、バニラの香料だったんですね?
そうですね、研究所の機器を使って牛糞を高温にして圧縮したら、サラサラの液状になったんです。それで処理は簡単にできるんだということがまずわかって、その後、液体の成分を機器分析してみたら、バニラの香りとなる「バニリン」という化学物質が含まれていることも判明しました。以前、木に含まれている「リグニン」という成分からバニリンを抽出した日本の研究者の方がいて、牛の糞にもたくさんのリグニンが入っていることは知っていたので、もしかしたらバニリンを取れるのではないかと予想はしていましたが、やはり実際に出てきたときは「牛の糞からバニラ?!」と驚きましたね(笑)