IT企業、IT産業といった場合、人によって思い浮かべる内容がかなり異なっています。それは前述した通り、ITの目的が多様だからであります。このサイトを読もうという方であれば、IT産業と呼ばれる会社にどのようなところがあるか、おおよそご存じと思いますが、この場を借りて整理してみます。
まず、ITそのものに取り組む企業群があります。コンピューター製品(コンピューター本体とそこで動かすプログラム)を設計、開発、販売するメーカー。メーカーの製品を複数組み合わせて、世の中の様々な目的に応じ、コンピューターシステムを組み上げる企業。これらは、システム・インテグレータあるいはITサービスと呼ばれます。その仕事のかなりの部分は、顧客の目的に応じた、コンピュータープログラムを開発することです。コンピューターを使って何をするのか、目的自体を考えてあげるコンサルティングも、ITサービスの一つに数えられます。
さらに、ITを使って新しいサービスを一般消費者などに提供し、それを生業にする企業があります。分かりにくい表現でしたが、要するにインターネット企業、ネット企業がその代表です。検索サービスを提供する会社、ソーシャルネットワーキングサービスを提供する会社があります。あるいは企業間の商取引をネットを使って支援する電子取引サービスの会社もあります。
また、IT産業とは呼びませんが、普通の企業においても必ずITの仕事があります。また自動車を例にとれば、自動車の中に大量のコンピューターが埋め込まれ、非常に多くのコンピュータープログラムが動いています。こうしたコンピューターの設計やプログラムを作るのはまさにITの仕事であり、自動車メーカーはそれをこなしています。自動車の設計も今やコンピューター上で行われています。自動車メーカーが活動していく際、膨大な事務作業が発生します。在庫管理、部品の管理、販売会社の支援など、こうした仕事を後押しするのもコンピューターシステムであり、自動車メーカーは事務用システムを開発し動かす部門も抱えているのです。
本サイトをご覧になる方に共通する関心事は、「ITの仕事を選んで大丈夫か?」だと思われます。大丈夫には二つの意味があり、一つはITの仕事の将来性はどうか、ということであり、もう一つはどんなIT企業あるいはIT職場を選ぶと安心か、ということでしょう。
まず将来性については、まったく大丈夫です。なにしろ目的を自由に決められる仕事でありますから、仕事が無くなることはありません。仮に減ってきたら、目的を発案していけばよいのです。ITの仕事が不要になる時が来たら、それは人間があらゆる目的を見失った時であり、そんな事態になったら就職どころではありません。
ただ冒頭に宣言した通り、私は中立ではありませんから、ITを誉めすぎている可能性があります。そこで虎の威を借ることにします。ピーター・ドラッカーという社会生態学者がいました。この名前を聞いたことがある方、ドラッカーの本を読んだことがある方も多いでしょう。もし未読の方がいらっしゃいましたら、騙されたと思って、ドラッカーの本を読んでみて下さい。『ネクスト・ソサエティ』あるいは『プロフェッショナルの条件』がお薦めです。
ネクスト・ソサエティの中でドラッカーは社会とITの関わりについて色々なことを書いています。私が乱暴にまとめますと、「我々は産業革命に匹敵する変化の中にあり、それに気付いていない。したがってすべてはこれからだ」ということです。ドラッカーはこう書きます。産業革命を起こしたのは蒸気機関ではなく、蒸気機関を利用した鉄道の出現であった。ITによる大変化を引き起こすのはコンピューターではなく、コンピューターを利用したインターネットである、と。インターネットに関しては過去何回かバブルと呼べる現象が起きました。しかし、我々は新しい産業革命の入り口に立っているわけですから、悲観する必要はないのです。
先に触れましたように、自動車とITの融合のような、新しい変化があらゆる産業で進んでいます。企業の事務処理をしていたITも、企業の外の情報を取り込んで、経営者の意思決定を支援できるように進化しつつあります。
「目的はいくらでもあるとしても、ITそのものが進化しないと、目的達成や問題解決ができなくなる危険がある。そこはどうなのか」と疑問を持たれる方もいるでしょう。確かにIT以外の他の技術系の仕事の中には、技術の限界が来てしまい、新しいことに取り組む余地が減っているものもあります。
ITについてはそうした心配は杞憂と思います。コンピューターの性能や価格を見ると、まさに飛躍的な進化が続いてきました。筆者が記者をしていた20年の間にも、「これ以上の性能向上や小型化は無理」といった議論が時折起きましたが、結果を見ると、必ず技術が勝利を納めてきました。
ITに問題があるとすれば、それは再三お伝えしているように、目的を考え出す人間の思考力とその目的を果たそうとする人間の行動力の問題であって、そこで使われるITそのものの問題ではありません。これが20年以上取材をしてきた私の実感であり、結論です。また身も蓋もないことを書けば、「コンピューターは進化するが、人間は進化しない」ということです。
ITの仕事は、自ら目的を設定できる可能性がある訳ですから、少々、皆さんに厳しい言葉を贈るとすれば、「何が有望か、などと聞かず、自ら有望な仕事を創造してほしい」と申し上げたくなります。しかし、自分自身を省みますと、雑誌記者という昔からある規定の仕事に就いてしまったわけで、そうも言えません。
もう一度、ドラッカーの威を借ることにします。ドラッカーは今後の成長分野として、医療とラーニング(学習)を挙げています。この二分野についても様々なIT利用が期待されており、これから大きな変化がありそうです。
ドラッカーは、「世界にとって問題なのは経済ではなく、社会のほうだ」と喝破しています。その文脈に社会起業という分野があります。社会に役立つ仕事を企業というビジネスの枠組みを使って実践しようという取り組みです。ここでもITは活躍します。環境問題、食料不足問題といったテーマについても、解決の一助として必ずITが出てくるのです。