[理系ナビ]日経BP社専門情報誌プレゼント企画

 いささか大きい話が続いたので、後半は具体的な話に移ります。コンピュータープログラムを一生懸命開発する仕事は今後も残るでしょうか、というテーマを考えてみます。コンピューターが登場した40年、50年前は、コンピューターに指示を与えるプログラムをすべて手作りしていました。その後、コンピューターが普及するにつれ、似たようなプログラムを何度も開発するのは意味がない、ということで、パッケージ・ソフトと呼ばれるジャンルができました。出来合いのプログラムという意味です。

 コンピューターを利用する企業は、いちいちプログラムを開発しなくても、このパッケージを買ってくれば、コンピューターを使って仕事ができます。最近では、こうしたパッケージ・ソフトをインターネット経由で利用できるようにするサービスも始まっています。こうなると企業は自社の中にコンピューターを置いておく必要すらない、ということになります。こういう動きが進むと、パッケージ・ソフトやサービス用の大元のプログラムはやはり開発し続けなければなりませんが、これまでいちいち手作りしていた仕事は減っていくと予想されています。一方、プログラムを自動開発する挑戦も続けられています。

 私は占い師ではないので、先のことを予想はできませんが、少なくとも今後10年、プログラムを開発する仕事が減ることはないと見ています。パッケージ・ソフトやサービス利用はもちろん進みますが、すべての目的を満たすことは不可能であり、まだまだ個別のプログラムを開発していかざるをえません。しかも、ここまでに触れてきた、新しい目的に応じて、新しいプログラムを用意していく必要があるのです。

 さらに、プログラムの自動開発は完全にはできないと思います。これは技術に限界があるという意味ではなく、冒頭で述べたことからです。目的を決められるということは、目的を変えられる、あるいは変動するということです。極端な言い方になりますが、空を飛びたいという注文を受けて開発をしてきたのに、途中から海にもぐりたい、という話に変わることがあるのです。

 これはプログラムの開発をITのプロに頼む発注企業がいい加減だからではなくて、世の中が変わっていくからです。開発を始めた時は空中戦をする予定であったが、開発後1年経ったら海上が主戦場になったということは、企業のビジネスにおいて起こりうるのです。これほど極端でなくても方針の微調整は四六時中起こりますから、どうしても人間が間に入って目的を再確認し、プログラムを修整していく、といった作業が残るのです。




 就職を考えた時、日本企業に入るのか、いわゆる外資系企業に入るのか、といった選択肢があります。外資系企業といっても、経営者から社員までほぼ日本人ですし、日本の顧客を相手に仕事をする訳で、普通の日本企業と大きく変わりません。外資系だからといって必ずしも海外で仕事ができるとは限りませんし、日本のIT企業に就職しても、顧客企業のグローバルプロジェクトに参画できれば、海外赴任することもあり得ます。要するに、職場としてそれほど大きな差はない、と私は思います。

 ここでは日本のIT企業と、外資系の本社である欧米のIT企業の先行きを考えてみます。「どうも日本のIT企業は元気がないようだ。やはり威勢のよい、欧米の大手IT企業の日本法人に入ったほうがいいのでは」と悩む方がいるであろうからです。

 確かに業績を見る限り、日本のIT企業はこのところ苦戦を強いられています。欧米企業も絶好調というわけではありませんが、著名な大手となりますと日本のIT企業と比較にならないくらい、しっかり利益を計上し、その金を使って買収を仕掛けたり、次世代の製品を作ったりと、ダイナミックな動きをしています。

 しかし、話をそらすようですが、私は日本のIT企業の国際競争力が落ちている理由は、個々のIT企業の経営問題に加えて、日本全体の問題の反映だと考えています。何度も同じことを言って、我ながらくどいですが、ITの仕事は目的と手段を同時に作ります。目的を決める顧客企業と、その目的を満たす手段を用意するIT企業は、車の両輪であり、両者がしっかり連携してこそ、よいコンピューターシステムが生まれ、顧客企業はそのシステムを駆使できるのです。したがって、顧客企業に元気が無かったり、挑戦的なシステム構築に挑んでくれないと、IT企業も腕のふるいようがないのです。

 これまで日本企業と日本のIT企業(外資系の日本法人含む)が二人三脚で作ってきたコンピューターシステムの中には、世界のコンピューター史に記録すべき、画期的なものがいくつもあります。30年から40年ほど前、欧米で誰もやったことがない大胆なプロジェクトが日本でいくつも行われました。銀行のオンラインシステム、列車の予約システム、新聞社の制作システムなど、技術的な難易度が極めて高いものばかりです。海外のコンピューター・メーカーは日本企業のために、製品を一部修正したり、エース級の技術者を日本に送り込んで協力しました。

 残念ながらこうした動きは最近見えなくなっていると言わざるを得ません。それが日本のIT企業の地味な印象につながっています。日本のIT企業か外資系か、ということより、ITを使って日本全体が元気になることを皆で考えていく動きを期待したいところです。



  

 これについては明言できます。日本の平均給与と比較するとけっして安くはありません。なぜ明言できるかというと、日経コンピュータ誌が時折、給与実態調査というものをやっているからです。この調査で分かるIT産業の平均給与を、日本の平均値と比較すると、ITのほうが高いという結果になります。


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